人材マネジメント考vol.4_人的資本経営における育成・研修体系の見直しの必要性 (課題と対策の方向性)

2023.10.12

 

人材育成における課題意識

以前コラムでご紹介した「人的資本経営における人材採用プロセスの見直しの必要性 」では

人材マネジメント戦略の中の採用について、人的資本という考え方でそれぞれの現状を分析した場合、今後どのような修正が求められるのかを考察しました。

 

今回のテーマは、人的資本経営における人材の育成、研修の現状と課題、解決策の方向性について整理したいと思います。

先ず、人材育成の現状と課題について、企業はどのように捉えているのでしょうか。2020年1月に経団連が会員企業1,412社に対して実施した人材育成に関するアンケート調査を公表しています。(下図1参照)

それによると、自社の人材育成施策が環境変化に「対応できていない部分がある」との回答は9割弱にも達し、大多数の企業が対応の必要性を感じています。対応が必要となっている要因(複数回答)としては、「就労意識の多様化(ダイバーシティ経営の推進)」と「デジタル技術の進展」、社員の職業人生の長期化(人生100年時代への対応)、事業のグローバル化の進展が上位にランクインしていることがわかります。

(図1)
1

人材育成の現状

こうした人材育成の課題に対して、企業の人材育成の現状はどのような状況なのでしょうか。
1回目のHRMの全体像のコラムでも触れましたが、従来の人材育成は、人事部門が主体となり、スペックが均一の新卒一括採用を中心とした階層別のベースライン教育が基軸として体系化されていました。

これに全社員(一部の企業では非管理職のみ)を対象にした自律的なキャリア形成を目的に、会社補助のある自己啓発支援制度を設けているのがスタンダードな研修制度でした。昨今はこれらの制度に加えて、サクセッションプランに関する選抜研修、コンプライアンスやSDGs、女性活躍、DX等、会社として重要視している諸施策を全社員に徹底浸透させる目的でテーマ別の研修も増加傾向にあります。

ここで人的資本経営における経営戦略と人材育成の連鎖化の視点からみた時に、現状の研修制度では以下のような課題があります。

①人事部門主体の育成・研修制度の限界

人事部門が主管の階層別研修等、将来のジェネラルな経営幹部候補者育成を目的とした教育制度を基軸とした研修体系では内容面、技術面、スピード面等で変化への対応が不十分です。

経団連の調査結果からも明らかなように、ダイバーシティやDX、グローバル展開等、高度化、複雑化、スピード化する経営戦略を実現するためには、人事部門から部門への予算確保も含めた権限委譲を進めることが極めて重要です。

②全社員対象の自己啓発支援制度の形骸化

自己啓発支援制度は、社員が自ら主体的に業務時間外に、現在の職務とそれ以外(将来を含む)も対象にした知識・スキルなどを身に付けることに対して、会社が受講料の補助等を通じて支援する仕組みです。

全社員の現状の業務や将来の業務についての遂行能力の向上につながる効果が期待出来ますが、一方で受講コースのラインナップや受講者の固定化、更には受講率の低下が大きな課題です。

人生100年時代における職業人生の長期化に対応したリ、スキリング等のコースのバリエーションや受講の仕組み等の再構築が必要です。

➂自律的キャリア形成の限界

2020年に経団連が実施した調査結果でも、現状としては「自律的にキャリア形成している」との回答は2割超(22.9%)にとどまっている一方で、「一部の社員が自律的にキャリアを形成している一方、多くの社員は会社主導」(55.2%)が最も多く、これに「総じて会社主導でキャリア形成が行われている」(18.9%)を加えると、7割強(74.1%)が会社主導のキャリア形成となっています。

明確なキャリアビジョンを持つ向上心や自立心の高い人材が少数派である以上、多数を占めるキャリアビジョンを持たない社員に対しては、何らかの形で会社が積極的に関与して研修プログラムの受講等を義務付ける必要性があります。(図2参照)

(図2)
#2

人的資本経営時代の人材育成

以上のような現状の研修制度の課題に対して、解決策の方向性をどのように捉えればよいでしょうか。そもそも人的資本経営における経営戦略を実現するための人材育成方針の策定や予算の見直しは、勿論会社主導で行われるものの、その研修受講やパフォーマンスについて継続性を伴って実現するためには、現場の社員の主体性が極めて重要な成功要因となります。

現状の人事部門主体の経営幹部候補者を育成する階層別教育制度や自己啓発支援制度の見直しを進めていく際にも、この主体性をどのように醸成していくかがポイントになります。

大多数の社員が明確なキャリアビジョンを持たない中では、会社主導で早い時期から個人が持つ知識・スキル・能力・資質等を客観的に把握して、業務遂行に必要な知識やスキル等を習得させることで業務での成功体験を多く積ませるというプロセスに会社や現場の上司が積極的に関わることで、結果として個人のキャリアビジョンを構築させることが有効ではないでしょうか?

そのためには、以下のような視点で育成・研修制度を見直していくことがポイントになります。

①若年層・中堅層にウエイトを置いたインプットとアウトプットの機会と経験知の拡大

経団連の調査でも自律的なキャリア形成のための支援が必要な対象層として、若年層と中堅層で7割強を占めています。(図3参照)

若年層等、入社の早い時期から複数の業務遂行に必要な知識やスキルの獲得と、習得した知識やスキルを発揮する機会の提供を通じて、多くの経験を積ませることで、曖昧であった自己のキャリアビジョンも明確になるのではないでしょうか。

(図3)

#3

➁人事部主体の集合型研修から部門でのプライベート型研修へ

これまで人事部主導で進めてきた集合型の人材育成研修に、部門でのプライベート型の研修を新たに導入し、個々人のもつ知識やスキル、資質を客観視してそれらを活かしながら、職務遂行に必要なスキルを習得するための実践的な研修によりパフォーマンスを高める。

そのためには、個々人の知識やスキル、資質等の現状レベルの把握や実務への応用まで、部門での育成・研修制度の見直しが必要ではないでしょうか。

 


今後のビジネス環境において、人材マネジメントの重要性は増しています。企業は、変化する事業構造に対応し、人材育成・研修の重要性を理解し、戦略的な人材マネジメントを実践することが不可欠です。
弊社では法人向けグローバルリーダー育成研修サービスを提供しており、グローバルビジネスに必要なスキル・能力を可視化し、現状からゴールに至る最適なソリューションをお客様とともに作り上げております。

是非お気軽にお問い合わせください。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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