人材マネジメント考vol.1_人材マネジメントのパラダイムシフト

2023.09.22

 

日本の企業は今、当面および中長期的な経営課題への対応が迫られています。

日本能率協会が毎年実施する日本企業の経営課題実態調査の2022年の報告書によれば、現在の課題においては「収益性向上」(43.4%)が第1位に挙げられており、「人材の強化(採用・育成・多様化への対応)」(41.1%)、「売り上げ・シェア拡大」(35.1%)がそれに続いています。

20230707_column1出所:2022年度第34回日本能率協会 当面する企業経営課題に関する調査

 

 

同様に、「3年後」の課題についても調査され、「人材の強化」(41.7%)が第1位となり、「収益性向上」(29.0%)、「売り上げ・シェア拡大」「新製品・新サービス・新事業の開発」(25.8%)が挙げられています。ここで注目すべきは、「人材の強化」が2位の「収益性向上」に10ポイント以上の差をつけて1位となっており、多くの企業において人材の強化が直近および中期的な課題として重要視されているということです。

 

20230707_column2出所:2022年度 第34回日本能率協会 当面する企業経営課題に関する調査

 

 

今後の先行き不透明感や既存事業の収益への影響を考慮して、旧来の事業にとらわれない新事業の開発、また事業ポートフォリオの見直し、実現のための人材マネジメントの強化に対して、中長期的な取り組みを必要としていることがわかります。
この調査結果から、グローバル人材の育成事業を行う弊社として、人材マネジメントに関して、過去のパラダイムと今後シフトしていくべき方向性についての検証と検討すべき課題について、明らかにしていきたいと思います。

現状のビジネス環境

これまでの主要企業の事業構造は、国内・既存事業主体で独占もしくは部分的な競争になっていました。それに伴い、人材マネジメントも本社主体の経営計画に基づき、既存事業領域におけるゼネラリスト(管理型人材)を指向し、採用面においては、新卒一括採用、定期採用等、本社人事部主体のスペック均質型の採用が主流でした。人材育成・研修面においては、会社からの一方的な提供型の研修が主体で、研修成果は不問、社内にのみ通用するスキルを付与し、主に底上げ目的の研修等が企画実施されてきました。更に評価報酬面においても、既存事業分野の維持拡大を前提としたゼネラルマネージャー指向の評価軸で、年功に比例した報酬体系も根深く残っているのが現状です。

一方アフターコロナによる外部環境変化が落ち着いてきた状況の中で、これからの事業構造は、新規事業やM&A、グローバル化、デジタル化、サービス化といった産業構造の転換期にあります。それに伴い、人材マネジメントも人事部から事業部が主体となり、Diversity、VUCA、DX、GX等経営環境の激しい変化に対応できるスペシャリスト、プロフェッショナル、スーパー・ゼネラリストを指向し、採用面においては、中途採用、外国人採用の積極的実施、通年採用、事業部別採用(ジョブディスクリプションに基づくスペック別採用)が今後大手企業を中心に主流になりつつあります。また、評価報酬面においては、グローバル企業に相応しい新たな評価軸の導入や、被評価者の納得性向上・結果のフィードバック、職務や役割グレード、業績に比例した報酬体系等の整備が急務となっています。


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このようなHRMのパラダイムがシフトしていく状況の中で、弊社のお客様の現状の人材育成や研修に対する優先課題を会社側と社員側との両側面から整理してみたいと思います。

企業側の優先課題

1. 未来の人材像とキャリア開発計画の不明確性
現代のビジネス環境では、急速な変化と新たなビジネスモデルの出現が珍しくありません。従来の方法では育成できないスペシャリストやプロフェッショナルの必要性が高まっていますが、それらの人材像やキャリア開発計画が不透明です。企業は社員に対し、長期的な方向性を提供する必要があります。

2. 研修プログラムの陳腐化
企業の研修プログラムはしばしば陳腐化し、経営戦略や社員のニーズに適した内容でないことがあります。さらに、研修の成果評価が不足しており、新しい技術やプログラムの提供も不十分です。業務と研修をリンクさせたプログラムの設計と、最新の技術を活用した研修の効率化が必要です。

3. 費用対効果の不透明性
研修の効果やプロセスの評価が不透明であり、事業戦略上の必要性に基づいているかどうか、スキルギャップが確実に解消されているかどうかなど、費用対効果を明確に評価する必要があります。可視化されたスキルや成果を評価し、PDCAサイクルを確立することが急務です。


社員側の課題

多忙な業務環境の中で、社員は研修とキャリア開発の重要性や組織への影響力を軽視することがあります。自己啓発に対する認識不足や意欲不足があり、社外学習や自己啓発の機会を活用しない傾向があります。企業は、社員に対し、自己啓発の重要性を啓発し、それを支援する仕組みを整える必要があります。

パーソル総合研究所の2019年の調査によると、社外学習・自己啓発を行っていない人の割合は、日本は46%で諸外国との違いは歴然です。

更に会社からの指名研修に対しても、業務を離れたリフレッシュや一部の組織だけの業務と認識されていたりするケースも多数見受けられます。また、育成は全て会社からの指名研修で満たされるものとの誤解もあり、自己啓発の認識や意欲不足からの影響で、自己のemployability向上の手段としての認識が不足している現状があります。

 

社外学習・自己啓発を行っていない人の割合

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解決策

これらの課題を解決するためには、どのような方策をとるのがベストなのか?

弊社のお客様のソリューション実績から、特に以下の4つのポイントを押さえることが効果的であることが分かっています。

 

1. CDPの明確化と育成計画の策定
全社や各事業分野におけるキャリア開発プログラム(Career Development Program、CDP)を明確にし、それに基づいた育成計画を策定することが重要です。

スキル開発を中心としたキャリアの構築に焦点を当て、スキルマップの可視化を行い、経験学習に重点を置くことで、戦略的な人材開発を実現します。

2. 自己選択型研修体系の導入
会社管理型から自己管理型の研修体系に転換し、業務に適したプログラムの設定と、LMSなどの技術を活用した効率的な研修を提供します。

社員は自身のキャリア開発を積極的に管理し、必要なスキルを獲得できるようになります。

3. 研修成果の測定と認定
社員のスキル・能力向上の成果を測定するものさしやガイドラインを導入し、会社と社員が相互に成果を把握し、PDCAサイクルを回すことが重要です。特に、製造・技術開発・IT部門などの管理間接部門での対策が急務です。

4. Employabilityの向上
自己啓発の重要性や価値、組織への影響力に対して社員が向き合い、主体的に取り組むことを促すために、プロフェッショナル人材の育成(Employabilityの向上)を目標にする必要があります。こうした取り組みは、人生100年時代の長期的なキャリア開発においても重要な役割を果たすでしょう。


今後のビジネス環境において、人材マネジメントの重要性は増しています。企業は、変化する事業構造に対応し、人材育成・研修の重要性を理解し、戦略的な人材マネジメントを実践することが不可欠です。
弊社では法人向けグローバルリーダー育成研修サービスを提供しており、グローバルビジネスに必要なスキル・能力を可視化し、現状からゴールに至る最適なソリューションをお客様とともに作り上げております。

是非お気軽にお問い合わせください。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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