【セミナーレポート】後編:なぜ日本でグローバルリーダーが育たないのか?ポストコロナ時代のスキル要件とは?

2021.10.18

 

企業のグローバル展開にあわせ、次世代リーダーの育成に取り組まれるなかで、

以下のような課題をお持ちの企業様も多いのではないでしょうか。

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・グローバルリーダーの定義、スキル要件が曖昧である

・人材育成戦略が体系化されていない

・そもそもスキルが把握できていない

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ポストコロナ時代のグローバルリーダーのスキル要件が変化していく中で、どのように人材育成をしていくべきなのか。

 

当社では7月30日に「なぜ日本でグローバルリーダーが育たないのか?ポストコロナ時代のスキル要件とは?」と題したセミナーを開催し、以下3名に登壇いただきポストコロナ時代のグローバルリーダー像とその育成について考察いただきました。

 

【第1部】変革をもたらすグローバルリーダーの要件とは~ワンシーンごとのビジネスの神髄~

<登壇者> ネクストチャプター株式会社 代表取締役社長 大西 基文 氏

【第2部】海外でパフォーマンスを発揮するにはどんなスキルが必要か~実体験を徹底分析~

<登壇者(対談)>

・早稲田大学政治経済学術院教授・トランスナショナルHRM研究所所長 白木 三秀 氏

Envizion Philippines, Inc. CEO、Ripple Kids Educational Services, Inc. CEO、RareJob English Assessment, Inc. CEO、株式会社レアジョブ 海外戦略推進室室長 水島 俊介

 

本コラムでは第2部:白木氏、水島による対談の様子をレポートさせていただきます。
※第1部レポートは【セミナーレポート前編】をご確認ください。

 

海外でパフォーマンスを発揮するには
どんなスキルが必要か~実体験を徹底分析~

 

<登壇者>

白木先生編集


白木 三秀 氏

早稲田大学
政治経済学術院教授
トランスナショナルHRM研究所所長

 

水島さん編集


水島 俊介

Envizion Philippines, Inc. CEO、Ripple Kids Educational Services, Inc. CEO、RareJob English Assessment, Inc. CEO、株式会社レアジョブ 海外戦略推進室室長

 

 

(白木)

海外でパフォーマンスを上げるにはどうしたらよいか?という点に関する問題提起として、グローバルリーダーを論ずる上で次の3つの視点に言及したいと思います。

1.Expatsの役割

 日本から派遣される社員のリーダーとしての役割は、派遣先の組織の在り方によって変わってくるということです。まず、オーガニック、つまり自社の子会社である海外拠点に派遣される場合ですが、ここでは海外オペレーションがどのようなライフ・ステージ上の段階にいるかによって役割が変わってきます。日本の子会社の場合、立ち上げ時期は本社から人がきたというだけでリスペクトされるのでトップダウンが通用します。海外オペレーションが長いところは、現地で人材が育っているため、日本からはエース級を出すことが必要です。通常、最終段階は現地化、つまり現地のリーダーに権限移譲をするわけですが、ここではどれだけのキャパシティをもって、どれだけの権限委譲ができるかという力量が求められます。一方、インオーガニック、つまりM&Aなどによって買収した先に派遣される場合は、派遣される人、買収先の企業をどのようにインテグレートしていくかのビジョンをきっちり示すことが求められます。すでに現地にプロフェッショナルがいるので派遣者もそれに見合う人材が必要です。

 

2.リーダーシップ

リーダーシップは開発可能なのか、あるいはもともと資質をもつボーンリーダーは存在するのかという議論があります。カルロス・ゴーンが20代でタイヤ大手のミシュランで南米の工場長や会社トップなど責任あるポストについたという事例からもわかるように、若いときに海外の責任ある仕事の経験をすることでグローバルリーダーとしての能力は開発できるのではないだろうかということです。

3.コミュニケーション

日本と海外のコミュニケーションでハイコンテクストからローコンテクストに変わります。あわせて、親会社から派遣されている人たちと、ローカルの人の考え方とにギャップがないかを常に把握しておくことも大事です。4W1Hをきちんと示していくロジカルなコミュニケーションが重要になります。

 

では、水島さんのお話を聞かせてください。

 

(水島)

私は1990年生まれですが、大学に入るまでは海外旅行にすら行ったことが無い、グローバルとは程遠い環境で育ちました。新卒ではGoogleに営業職として入社し、同社の広告商品を広告代理店に向けに営業しました。その後2016年にレアジョブに入社し、入社一か月で海外子会社立ち上げプロジェクトのメンバーの一人としてフィリピンに赴任しました。当時、レアジョブのフィリピン子会社はマニラにあるレアジョブ・フィリピン1社のみでしたが、この5年間で私は新たに3社の設立にかかわりました。

 

まずは入社直後にミンダナオ島のカガヤンデオロで、教育機関むけにオンラインレッスンを提供するEnvision Philippinesという会社を3名の日本人スタッフで立ち上げ、私はオペレーションマネージャー、COOを経て、20189月にCEO就任しました。続いてセブにある、子ども専門オンライン英会話「Ripple Kids Park」を買収しグループ化をし、20199月にEnvision Philippinesと兼務でCEOに就任し、本格的にオペレーションのPMIに取り組みました。最後に、今年6月にRareJob English Assessmentという英語力評価事業を行う子会社を設立しCEOに就任しました。現在、これら三社のCEOとして約500名の社員をマネジメントしています。また今年4月からレアジョブ本社の海外戦略推進室室長に就任し、海外M&Aを始め海外展開の準備に取り組んでいます。

 

これまでの5年間海外で働きながら感じた「グローバルリーダーとして働くため」に必要なことをお話しします。まず、グローバルリーダーとは「世界のどこでも(=グローバル)、人を巻き込み結果を出せる(=ビジネスリーダー)人」だと私なりに定義しております。

私の経験から、グローバルリーダーには三つの能力が必要だと思います。

1.ビジネスパーソンとしてその役割で結果を出せる能力

これは当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、意外とここがボトルネックになっています。例えばプロジェクトマネージャーとして外国に赴任する人がいたとします。その人はそもそも日本のビジネス環境でもプロマネとして結果を出せる能力はあるのでしょうか。能力は不足していても語学力や本人の希望だけで送り込まれていないでしょうか。これは非常に重要なポイントです。なぜなら本社から来るというだけで現地社員からの期待値は高くなります。さらに現地の社員は現地のプロジェクトや働き方に精通しています。日本からは上長として赴任する場合が多いのですが、当然上長には高い能力を求めることになります。そのような認識もなく、プロマネの能力がないまま赴任した場合、全くバリューを発揮できず、非常に肩身の狭い思いをすることになりかねません。結果を出せる能力があるかをシビアに判断されるので、赴任前も赴任後も足りないと思うことは向上心を持って学び、成長し続けることが求められています。

 


2.前提条件が違う環境で自分のステレオタイプを破り結果を出せる能力

たとえ前項1のように日本で結果を出せる方でも、その経験やノウハウはすべて現地に当てはまるとは限りませんが、そんな中でも与えられた異文化の環境下で成果を上げることが求められます。

私の会社で朝6時半開始シフトでの遅刻が一向に減らないという状況がありました。こんな時よくある日系企業の対応は、叱咤激励やペナルティを与える、つまり減給や評価へのマイナスインパクトを与えるといったものですが、それで状況が劇的に改善するようなことはありません。

よく時間感覚の文化差を言い訳にして思考停止する人もいます。でもそこで思考停止せず「何故間に合わないのか」についてもう一歩深く踏み込んでみると、普段タクシーや社用車で出社している日本人スタッフには見えないことが見えてきました。それはフィリピン、特にカガヤンデオロでは、我々の想像以上に交通網が整備されていないということです。

例えば、まず自分の家から大通りに出るためにトライセクルというバイクの横に席が付いた乗り物に乗ります。これを見つけられるかはタクシーを拾うのと同じくらいの感覚で運次第です。雨の日は走っていないことも多く、大通りまで雨の中30分歩くということもよくあることです。その後にジプニーというバスのようなものに乗りますが、これも何時に来るのかどうかわかりません。それを通常2-3回乗り継いでようやくオフィスにたどり着くということを社員の方々は毎日されています。これは彼らのコントロール外の話なのでいかに𠮟咤激励をしても全く意味がありません。唯一の解決策は「交通機関の遅れを見越して家を相当早く出る」以外なく、それをどう動機づけできるかがポイントでした。

 

さて、フィリピン人は食べること、特に友達とわいわい食べることが大好きで、副業として手料理を売ることも流行っています。一方、朝は基本的には起きて朝食を食べて通勤というシンプルな時間の使い方をされている方が多いです。これらを考えたときに「朝食を家でとってから通勤するのではなく、オフィスでの手料理販売を許可して、朝食をオフィスでみんなとわいわい一緒に食べられるようにすればよいのではないか」というアイデアが浮かびました。

日本では想像すらしないような、一見冗談のような施策ではあるのですが、これが大当たりしまして、朝シフトの社員はシフトの1-2時間前にオフィスに来てみんなと美味しい朝食をとることが動機づけとなり遅刻は劇的に減りました。約100名が朝6時半から始まるシフトにおいて、遅刻ゼロだった月も複数出てくるくらい、圧倒的な結果に繋がりました。

これは「異文化を言い訳にして思考停止せず、実情を見極め、柔軟に考えて対応していくこと」の一例です。

 


3.異文化で信頼関係を構築する能力

この能力は基本行動とマインドセットに分けられます。

さらに異文化で信頼関係を構築するための基本行動として重要なもの2つを紹介します。

 

まず一つ目は「自らの意図を明らかにする」ことです。

多くの場合、赴任者は現地社員の上役として赴任しますので、現地社員は、自分たちを管理し、仕事の指示を出す人がどんな人物なのか?何を期待しているのか?その不安は赴任者自身よりも大きい可能性もあります。こんなとき、この会社/組織をどうしたいのか、何を成し遂げたいのかというビジョンを伝えるととても歓迎されます。またマネジメント方針については、国による働き方の違いより、自分の会社のフェーズや状況に合ったマネジメント方針を選びその理由を説明することが重要です。これによって現場のストレスや不信感を大幅に減らすことができます。私の場合、フィリピン1社目の立ち上げフェーズでは非常に速いペースで進めていく必要がありましたので、現場には「立ち上げ期はトップダウン、組織や人が成長したらボトムアップに移行する」そして「今は私がすべての意思決定に責任を持つから、社員の皆様はその実行に責任を持ってほしい」と伝え、共通認識を持つことが出来ました。そのお陰で「日本から来たスタッフは全然現場の話を聞いてくれなくて、指示ばっかりしてくる」といったような、こちらの意図に反する受け取り方をされることなく済みました。

 

 

二つ目の重要な行動は、徹底した説明です。

海外赴任の現場において、言葉の壁もあってか、本社の背景事情や目的等の細かな説明は飛ばして、明解・簡潔に指示を出すだけというようなスタイルに陥るケースも少なくありません。しかし、もともとの前提知識・価値観・慣習が異なる相手に接する場合にこそ、自分では「こんな当たり前のこと説明するのは失礼かな?」と思うくらいのレベルから懇切丁寧に説明することが必要です。

前職のGoogleで働いていた時、上司は欧米系外国人だったのですが、最初は「なぜこんな簡単な当たり前のことから説明を始めるのだろう?」と感じるくらい詳しく話す人でした。ただ後で、Googleのような多国籍企業で働く場合は異なる国籍・文化・価値観・宗教の中で働くことが当たり前なので、自分の当たり前が通用しないことを前提にコミュニケーションをしていたということがわかりました。こんな経験から得た「徹底した説明」は自分がマネジメントするときも実践してきました。ですので、部下のアウトプットを見て能力を嘆く前に、まずは自らの説明が「自分の当たり前によって」相手に正確に伝わっていないのではないか、必要十分な情報を提供できていないのではないかを振り返るように心がけています。

 

 

 

最後に異文化で信頼関係を構築するのに必要なマインドセットについてお話しします。

そもそも海外で働くとはどういうことでしょうか?

まず、海外で働くにはワーキングビザを取る必要があります。これはフィリピンでは非常に骨が折れる作業で、多くの資料提出とチェック、面接を通してしてやっとワーキングビザを貰うことができ。つまり、海外で働くとは、「その国から許可を頂き、働かせてもらっているということ」ということなのです。だから「その国、地域、人のために貢献することを期待されている」わけなのです。よく「我々の海外進出のお陰で雇用が生まれている」と自慢げに言う方もいますが、そもそも許可を頂いて働かせて頂いている以上当たり前のことで、自慢するようなことではないと思います。

これを理解することがとても重要です。なぜなら、多かれ少なかれ現地の人々の心の底にはそのような認識があるからです。日本でもそうだと思います。少し冷たい言い方になるかもしれませんが、やはりどこまでいっても「ヨソモノ」なのです。それを卑下することなく正面から受け止め、体感として実感できれば、自然と日々の言動も変わり、現地社員から信頼を得られるような振る舞いができるようになると考えています。

 

以上、限られた時間ですが自分の体験をベースにお話しさせて頂きました。

 

Q&A

Q:(白木)赴任したときに本社からの具体的なミッションや目標が設定されていたのですか?
A:(水島)明確な売上と利益目標がありました。それとは別に自らのサブ目標を設定しました。また中期的にはフィリピンの人にマネジメントを任せ現地化を果たして帰るというのがミッションでした。


Q:(白木)中間管理職とトップの違いは何でしたか?

A:(水島)細かい違いはありますが、CEOとそれ以外という区別だと思います。CEOはすべてのことに責任をもつ、ラストマンとしての覚悟が要ります。

Q:(白木)日本人は経験がないと子会社で重責があって不慣れなことに相当おたおたする人もいますが、その辺はどのように対応されましたか?

A:(水島)経営経験がないなかでCEO経験したわけですが、不足していた人事、財務、現地政府との折衝などは、可能なリソースを使って学び続けるしかありませんでした。可能な限りにインプットをする。たとえ部下であっても現地の人からどれだけ学べるかは非常に重要だと思いました。大企業は専門家とペアで行くことが多いのですが、中小だとそのような余裕はありません。


Q:(白木)コロナが始まった時期にもフィリピンにおられましたが、どんなことが大変でしたか?

A:(水島)不確実性が高いなかで自分のビジョンをもとに進めていくしかないという状況でした。日に日に感染者が増えていく、政府からの指示がない。現場では不満が募る。こんな中で会社としてどうするか独自で判断し、完全在宅勤務にすることを決めて本社を説得しました。結果的には、政府からの指示の前に在宅勤務に切り替えたので、オペレーションの混乱などはなく移行できました。


Q:(白木)買収したリップルキッズパークを買収後どういう形で統合していったのですか?

A:(水島)初期の段階で大事なのは、相手の会社のキーパーソンといかに信頼関係を築き、どのようにしていきたいかのビジョンを語っていくことだと思います。

 

最後に

(白木)リーダーはトレーニングして経験してなっていくもので特に20代の経験は重要ということがわかっています。我々が行ったリサーチで、海外赴任している2030代の300サンプル集めて、どのようなコンピテンシーをもっているか、そのどれが成果に影響を与えているかを調査したことがあります。共通の因子として、異文化適応能力、前向き行動力、仕事能力、対人能力がでてきましたが、その中ですべての成果に影響を与えているのは「前向き行動力」という結果でした。英語力は成果にプラスの影響を与えますが、単独で有意になるだけの強さはありませんでした。VUCAの中で臨機応変、自分の仕事上の貢献をアピール、新しい仕事に意欲的、交渉力がある、こういう要素を含んでいるのが前向き行動力です。

どうやってそういう人材を採用できるのかというと、そんなに簡単なことではありません。今日の経験談にもあったように、20代のうちから責任ある立場で経験させていくことが成長につながると思います。

 

 

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