人的資本の開示とグローバル人材戦略について

2022.02.24

 

ESG投資、コーポレートガバナンスコード改訂(20216月)、ISO30414、ジョブ定義、人材版伊藤レポート[i]、など一連の人的資本開示関連の議論がここ数年活発化しています。これまで政府も関係業界とともに人的資本の開示の方向性について積極的に取り組んできましたが、20222月から内閣府に専門会議を設置し、この夏くらいには上場企業に対して「人的資本」に関する情報開示指針を作るとしています[ii]。いよいよ具体的な指針がしめされ、実行のフェーズに入ってくるわけです。

 

人材育成という視点でみると、開示を義務化することを通して、社員の能力やスキル*の可視化とスキルアップやリスキリングを促進し、日本の企業の人的競争力強化やイノベーション創出を後押しすることが狙いとも言えます。
*本稿では「スキル」を、知識・コンピテンシーも含めた、成果創出のための広義の能力を定義しています)

 

これは企業にとって、自社の人材戦略が自社の経営戦略にきちんと連動しているかを見直すよいきっかけになります。経営戦略を実現する人材戦略を明らかにし、人材要件を定義して、定量的な指標でゴールと現在地とのギャップを可視化し、それを埋めていく施策を計画します。これを投資家や社員との対話を通して浸透させていけば、「人」の面でどのように経営戦略を実現していくのかについて理解が深まり、説得性が増します。

 

と、ここまで書くと

・言うは易しだが、現場では何から手を付ければよいのか手探り状態

・開示は開示で、現場とは別に担当部署で進めてほしい

・開示が目的ではなくて、大事なのは業績向上
・外部に出す開示項目になければ関係ない

と感じる方も多いのではないでしょうか?どれも一理あります。


ただ、人的資本開示から人材投資への流れは「やらなければいけない義務」というより、
企業の「新たな人材戦略につなげるチャンス」と捉え、うまく活用していただくのが良いのではないでしょうか。

人的資本の開示が話題になって以来、日本企業の教育研修への投資が国際的にみて低いレベルであることや、働き方や価値観の多様性に育成施策が追い付いていないことなど、「人」に関する注目度が高まっています。こうした外からの追い風を自社の人材競争力強化に生かさない手はありません。

 

これまで、ジョブ定義やスキルの可視化は、高度IT人材の採用や社員のITスキル習得を通した生産性向上や配置転換という文脈で語られることが多かったように思います。これはグローバルに比較したときに日本経済停滞の原因ともなっており、喫緊に取り組まなければいけないアジェンダです。ただ、内向きだけでなく刻々と変わるグローバルビジネスに目を向けることも忘れてはなりません。

多くの企業はポストコロナをふまえた新しい中期経営計画を発表しています。その多くは成長戦略をグローバル事業の拡大においています。したがってグローバル戦略という側面においても、ジョブ定義とスキル定義、あるべきゴールと現状のギャップの可視化と対策が当てはまるわけです。これを機に自社のグローバル戦略を実現するうえで、人材育成の施策を点検してみるとよいでしょう。

 

ではもう少し具体的な例を考えていきましょう。

 

たとえば、M&Aを通じて事業規模拡大と収益向上を図るイン・オーガニック戦略をとる場合、外部専門家と連携してデューデリなど一連の業務を実行できる人材、合併後のPMIを担う人材がそろっているかは人材面で重要なチェックポイントです。その裏付けなくしては、戦略自体が絵に描いた餅になったり計画がとん挫したりします。またこうした戦略を社内に浸透させ、実行に参画することを自己成長やキャリア拡大のチャンスととらえる社員を発掘し、育成していくことはエンゲージメントを高めることにもつながります。

 

また、日本が中心となり海外の複数拠点を巻き込んでグローバルなR&Dプロジェクトを推進するという戦略もあるでしょう。こうした場合、プロジェクト全体に必要なスキルセットを明確にし、各拠点のメンバーの多様性や得意分野をふまえた役割を明示し、時差をかいくぐって異文化コミュニケーションを綿密に行い、チームとして機能していくための推進力やファシリテーション能力がある人材が不可欠です。新たに英語で習得すべきITスキルもあるかもしれません。これまでローカルに研究を重ねプロジェクトに不可欠の優れた専門性をもっている社員がいたとして、このリーダーの役割を担ってもらいたいとしたら、必要な育成施策を取らねばなりません。

 

さらに、将来のグローバル部門を牽引する幹部候補の育成やサクセッションプランの点検も必要です。点検するときに留意すべきは、予測不可能で変化のスピードが加速する環境下においては、現状維持が一番のリスクだということです。つまり従来型の人材定義や育成方法ではほとんど歯が立たないと思ったほうが良いのです。多くの企業がこれまでにない事業に乗り出します。その事業をまとめていく能力は既存事業で求められたものとは異なります。また求めるジョブ定義やスキルのグローバル通用性も不可欠です。グローバル事業のジョブ定義は、一昔前の国内調達・育成型のグローバル人材とは一線を画し、社内外・国内外でも最適な人材を見つけだし育成することを前提にしています。

 

このような背景から、自社のグローバル戦略と照らし合わせて、これからのグローバル事業を担う人材のスキルを再点検・再定義したいという企業が増えています。またスキルを再定義し可視化する上では、スキルの定量化、メトリックスという視点を盛り込むことも有用です。

 

当社では現在、グローバル事業を担う人材のスキル定義に関する調査の実施を予定しています。参加にご興味がある企業の方は下記の画面で必要な情報を記入し、質問欄に「グローバルリーダー調査について」を記してお問い合わせください。

問い合わせる 


[1]
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html

[ii]”人材の価値、開示に指針 政府、企業に育成戦略など促す“ 日本経済新聞 2022年2月2日



 

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