DX時代の異文化マネジメント力 ―異文化対応―

2022.08.30

 

「よいマネジャーはどこの誰と仕事をしても、よいマネジャーである」とよく言われますが、
よいマネジャーとは一体どんな人なのでしょうか?

 

優れたグローバルリーダーとは、いろいろな国や文化や価値観の人と働いても常に成果を出せる人と当社では定義しています。別の言い方をすれば、文化や国を超越したメタカルチャーなマネジメントスキルを持つ人です。メタ(meta-)とは「超越した」「高次の」という意味です。
あえて、異文化(cross-cultural)とか多文化(multi-cultural)でなくmetaをここで使うのには理由があります。

 

昨今、国内で外国人の活用が広がり、オンラインでのコミュニケーションが定着してきています。国内で異なる国籍・文化をもった複数の人たちと仕事をしたり、あるいは国や文化が異なる海外複数拠点が連携して直接会ったことのない人たちとプロジェクトを進めることも珍しくなくなっています。東京にある部署がホストになり、インドの外部コンサルタントと、グループ内リージョナルヘッドのシンガポールのマネジャーと、タイの拠点長が集まり、タイの市場戦略について、データ分析に基づいて話し合う、こんなケースです。この状況では、1対1、つまり特定の国籍・文化への対応をしつつも、同時に複数の国籍・文化の人を巻き込み連携して成果につなげるスキルが必要になります。さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)時代ならではの、スピード感・仕事の進め方にも適応していかねばなりません。

 

そこでメタカルチャーなグローバルリーダーのスキルの軸になるのは「洞察力」だと考えています。洞察力とは、目に見えないものも見抜き、本質は何かを見極める力です。洞察力を磨くことで、リーダーとしての判断の質が高まっていきます。

グローバルリーダーの洞察力

洞察力を磨くためには、シンプルに2つの習慣を身に着けるのがよいと考えます。
まず「なぜ?(Why)」を自問する習慣をつけること。そして「もしかしたらこれが理由かもしれない(Because)」の答えの手がかりになる情報や知識をたくさんストックしておく習慣です。

 

国・文化・価値観・年齢・その他バックグラウンド等が違う人と仕事をするときには、自分では当たり前と思っていることが当たり前ではないことが頻繁に起こります。グローバルビジネスとは、むしろその連続といっても過言ではないでしょう。そんなときに、自分が思ったことを相手にぶつける前に「一息おく」のが洞察力のある人の特徴的な行動です。「一息おく」というのは、その間に「待てよ、なぜこの状況がおきているんだろう?」と考える、これがWhy自問の習慣。そして「もしかしたら、相手はこう解釈しているかもしれない」「自分の言動に相手は違和感をもっているかもしれない」「相手の行動の動機はなんだろう」「この状況は周囲からどう見えているんだろう」のような自分への問いをいろいろ高速で回します。もしかしたら、その結果、口から出てくるのは、自分の言いたい事よりも、相手に質問することかもしれません。

 

自分で考え判断するときの洞察力を高めるには、ナレッジの引き出しをたくさん持っておくことが必要です。ではどのようなナレッジが必要か、考えていきましょう。

 

異文化マネジメント

1.自国や自文化の特性

まず、「異なる」というのは自分と相手の比較ですから、自分とは何かを客観視ことからスタートしましょう。個人の違いはさておき、主に日本の中で育ち働いている人は「自分は日本の文化や価値観、ビジネスのやり方、勤務している企業の組織風土に影響されているが、相手はそうとは限らない」ということを認識しなければなりません。

 

国というくくりで文化をみると、日本人はこれまで、多文化・多言語に富む国の人と比べて、異なるものに対応する経験が少なかったと言えます。もちろん日本国内には、いろいろな文化や言語的背景もつ人は少数いますが、文化・言語の多様性を前提としている国と比べて、こうした違いに気づいたり配慮する経験が不足しています。

 

象徴的な例として、日本語の「違う」という言葉があります。「違うやり方を考えてごらん」というときは「異なる、別の」という意味ですが、「それ違う、違う!こうだよ!」というときは「正しくない、間違っている」という意味です。日本では「違う」という言葉を英語なら2通り、differentwrongの意味で使っていることになります。私はここに、同じであることのほうがよいという潜在意識があるのではないかと感じてしまいます。

 

自文化に関する客観的な評価を知るには、多様な国のビジネス文化の比較研究のなかでの日本の分析が有用です。主なものとして、ホフステードが提唱する「国民文化6次元モデル[1]」や、ホフステードモデルからさらに発展して開発されたE・マイヤーの「カルチャー・マップ[2]」があります。ホスフテードモデルによると、日本のビジネス文化は、男性性・不確実性回避・長期志向が強く、個人やプライベートよりも組織を優先する傾向があるようです。カルチャー・マップによると、日本は、ハイコンテクスト文化(独自文化内で暗黙に共有しあっていることが多く、くどくど言わなくても「あ・うん」の呼吸でことが運ぶ文化)であり、何かを批判するときはストレートでなく間接的に言うことを好み、対立を回避しようとする傾向が強いとされています。その一方で、上下関係は重んじつつも意思決定においては合意形成を重んじ、そして時間やスケジュールを守ることを重視するとされています。いずれのモデルも、対応する相手の国の文化との相対的な関係性で捉えることになります。このような比較研究から自分が属するビジネスカルチャーの特徴を把握することは、洞察力を磨くためにとても便利です。

 

海外駐在前に、行先の国の言葉だけでなく、その国と日本の文化の違いを捉えて、異文化受容力・異文化適応力・異文化マネジメント力を高めるトレーニングを受けておくと、海外赴任先で直面するストレスへの耐性を高めることができます。

2.個人の異文化適応力

さらに個人としても、異なる文化や価値観に対して自分がどのような特性をもっているのかを把握することは大事です。個人の異文化適応力はスキルとして伸ばしていくことが可能であり、そのために測定ツールを使って現状を知ることから始めるのがよいでしょう。

columcopyright©株式会社エイムソウル


例えば、CQCultural Intelligence Quotient)という概念があります。これは「多様な文化が交わる環境で、効果的に対応できる能力」と定義されていて、モチベーション、知識、行動、メタ認知という4つの要素で構成されています。

 

CQを測るには、CQIというテストを使うことができます。受験者の文化特性と受容する上でのポイント、異文化受容にあたっての性格と価値観の傾向、職場での異文化受容に対する意識の高さと行動力などが分析結果としてわかります。日本人向けのものであれば、日本人である自分がどのような異文化適応力・マネジメント力をもっているかを診断し、外国の人とうまく働いていくポイントを個別に把握することができます。海外赴任の際や、部下に外国人がいる場合に活用できます。一方、海外の人むけのCQIもあり、例えば、外国籍人材の採用時に、応募者の「異文化適応力」について、「定量化された指標」での選考実施、見極めが可能となり、採用時の定量データは、受入部門の日本人スタッフと共有し育成定着化、早期戦力化のためのマネジメントツールとしても活用することが出来ます。

更に、その結果に基づいて、適応力を高めるトレーニングを受け、実践での自覚・内省と改善を繰り返していけば、異文化に対する洞察力も高まっていきます。

 

最後に

当社では、今回ご紹介させていただきました、異文化トレーニング、また異文化適応力を定量化する各種アセスメントを提供しております。詳細はこちらからご確認くださいませ。

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[1].ホスフテード、GJホフステード、M・ミンコフ著「多文化社会 違いを学び未来への道を探る」有斐閣 2013
https://hofstede.jp/intercultural-management/#hofstede_mode

[1] Erin Meyer, “The Culture Map” Public Affairs, New York 2014

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