導入事例 | 株式会社プロゴス

街全体を楽しむ拠点としてのホテルブランドの確立:東急ホテルズ&リゾーツ株式会社

作成者: PROGOS事務局|25/12/17 2:02

もはや、宿泊するためだけに存在するのではない

プロゴス社

貴ホテルでは、グローバルマーケットを見据えた成長戦略を強く打ち出していらっしゃいます。グローバルという点では、インバウンド需要への対応と、海外のホテル経営に進出するという2つの方向があると思うのですが、それぞれの戦略をおきかせいただけますか?

西野様

当社は、国内に66ホテル、海外に3ホテル、計69ホテルを有しています(2025年9月現在)。国内では海外旅行者に注目される「SHIBUYA」などの大都市から、自然豊かなリゾート地まで、幅広いブランドのホテルを運営しています。今、私たちが掲げている方針は、ホテルを単なる宿泊する場所にとどめず、その街や地域を体験する拠点として、街全体を楽しんでいただくための存在にしたいということです。

コロナ前はビジネス利用かグループ旅行が多かったので、宿泊客にとってホテルのレストランは朝食で利用されることが中心でした。しかし最近は個人の旅行にシフトしてきており、個人のお客様の場合、どんなところで食事をしたいかにこだわりがあり、ホテルのレストランが選ばれることも多くなっています。またラグジュアリーのホテルでは、お客様のより豊かな体験を実現するために、より高度なコンシェルジュサービスが求められるようになってきています。

海外でもMC契約で出店する方針は同じですが、まず海外の事業主から指名されるような国内ブランドにならなければいけないと考えています。そのためには、海外から来たお客様が「日本で利用した東急のホテルはいいので、自分の国にもあったほうがよい」と思ってもらうとことです。グローバル化のためにも、まず国内でのブランド確立をしっかりしたいと思います。

 

プロゴス社

貴社はたくさんのホテルブランドをお持ちですが、特にインバウンドむけに強化したいブランドはありますか?

西野様

インバウンドという観点では、ブランドと地域の両面を見ています。東京はいろいろな国からお客様がいらっしゃいますが、西日本は比較的アジア圏からの利用が多く、地方の国際空港で直行便が増便されたところもインバウンドのお客様が増えています。

一般的に、より遠くからくる人は長く滞在し消費する額も多くなる傾向があります。移動のコストがかかるので、予算も多め、楽しみ尽くしたいということでしょう。日本なら、北米、ヨーロッパからのお客様は長期で単価も高く、東南アジアからのお客様は滞在が短くてお金はそれほどかけないけれど頻繁に日本に来てくれる傾向があります。

コト消費に対応するには異文化コミュニケーションが不可欠

プロゴス社

さきほど、単なる宿泊の場所でなく「街全体を楽しんでいただく」ためのホテルをめざすとのお話がありましたが、そのためには、どんな対応が求められますか?

杉野様

インバウンド需要が、モノ消費からコト消費へ変わってきていることから、異文化を理解してコミュニケーションすることが益々必要になっています。たとえば、当社ではお正月にホテルのロビーで「ふるまい酒」でおもてなしをします。でも、インバウンドのお客様のなかには、アルコール類を一切とらない文化の人もいらっしゃいます。こんなとき、日本の価値観だけで行動してはだめで、まず「これは何か」を説明しないと大変なことになってしまいます。

 

プロゴス社

この戦略の実現にむけて、人事としてどんな育成施策をとっていらっしゃいますか?

杉野様

財戦略としては、グローバル人財の育成を中期経営計画にも組み込んでおり、それに沿った施策を取っています。

まず採用についてですが、各ホテルは当社とは別に独自で採用をしており、ブランドと地域によって英語力の必要性に差があります。英語力が必要なホテルでは、PROGOSテストを採用時に使って、即戦力となるスピーキング力をチェックしているケースもあります。

評価については、評価制度に英語力等を組み込むことはやっていません。ただし、資格取得報酬制度を全社的に展開しており、ここに語学関連も入っています。英語力を高めたい社員は、社内にある制度を活用しつつも、コミュニケーションの中身をみずからブラッシュアップしているようです。
育成については、知識のインプットについてはe-ラーニング、ダイバーシティ・アンコンシャスバイアスなどのテーマはケースを使って学ぶなど、学習要素によって研修形式を使い分けています。

 

自ら考え、選択していくキャリア形成を支援

プロゴス社

ホテルの現場の社員様はお忙しいイメージがありますが、社員の皆さまはどんな風に学んでいらっしゃいますか?

杉野様

人財育成の方針として、何を身につけるべきか、何を学ぶべきかをみずから考えられる人財を育成することを目標にしています。

西野様
キャリアについて、上長と1on1で相談して言語化して共有し、どういった研修がいいかを考え、該当する研修に手をあげて参加してもらうようにしています。

 

プロゴス社

社員様のキャリア形成については、どんなマインドやスキルを期待していらっしゃいますか?

杉野様

まず本社人財には、MC契約をしている全国のホテルに対して、ブランド価値をあげていってもらえるように働きかける、強いリーダーシップが必要です。さらに海外の方に、意見をしっかりと述べていかなければいけません。海外と協業ができ、海外で出店する場合、異文化の状況下でリーダーとしてマネジメント力を発揮できることも求められます。こうした点を踏まえながら自律的にキャリアを開拓していってほしいと思います。海外で提携しているホテルチェーンでトレーニングする機会もあります。今後は、グローバルなマネジメント力を強化していくプログラムを充実させたいと思います。

 

プロゴス社

ホテルの現場と本社の間では人の行き来はどのくらいあるのでしょうか?

西野様

店舗でキャリアを積んだ人の実務知識が、本社のポストでも必要な場合がありますし、そもそも現場がわかっていないとホテルのマネジメントはできません。そういう意味で、行き来はあります。

 

プロゴス社

現場の社員の皆様には、どんなスキルを期待していらっしゃいますか?

杉野様

英語のレベルアップは必要ですが、同時にコミュニケーションの内容も大事です。欧米のお客様のほうが、文化についてはかなり隔たりがあり、プロトコール的部分を意識しつつも、文化の違いを理解した上できちんとコミュニケーションをとることが求められます。

例えば食文化の違いとして、ビーガンや宗教上の食材についての知識をもっておくことや、アルコールを取らない国の方がいることを心得ておく必要があります。また、豚を食べない、牛を食べないということが、宗教上とても重要な意味を持つことなど、英語の前に、こうした違いについての深い理解が必要です。そこに立ち戻らないと、よいサービスを提供できないと思います。

英語の定型表現から、もう一歩踏み出す

プロゴス社

貴社では管理職全員がスピーキングテストを受験されましたが、最初どんな反応がありましたか?

杉野様

業務上、直接英語を使わない部署もあり、自分も受ける?のという問い合わせもありました。そこで、結果を評価するものでなく、全社でどのくらいできるかを調べるためのものであると丁寧に説明して回りました。

西野様

本社では自分のレベルが知られたら、いやだという人もいました。でも受験して英語力が足りないという気づきがあったせいか、英語研修の受講者が増えました。体重計に乗って自分の体重を知り、ダイエットを始めるのに似ています。体重計に乗るのはみんなやってもらいましたが、その後のアクションは自主的にやっています。

スピーキング力向上では、もう一歩踏み出すことが必要だと感じています。フロント系など濃密にコミュニケーションをとる必要がある部署と、朝食の時だけという部署では、求められる英語力に違いがあります。

前者の場合、日本のサービスは待つのが基本ですが、海外のサービスはこちらから働きかけ、お客様とのコミュニケーションを深めることが期待されます。現場の社員が海外のお客様に対して「あ、こんなに言っていいんだ」と気が付くところから、定型表現だけでなく、さらに一歩踏み出して話そうという気持ちが生まれます。そして、そのためには、言えるだけの準備が必要だ、ということになるわけですね。

少し前、「よいサービスとは?」というテーマの研修をやったことがありました。レストランの席でお客様がバックから何か取り出そうとしているシーンでは、薬を飲もうとされていることがほとんどです。その場合、薬を飲む場合は氷のない常温の水がいることを察してお持ちします。一方、海外のお客様には、何かお手伝いできますかとこちらから尋ね、要望を個別に言語化していくことが必要となります。

お客様が求めるサービスの正解を引きあてると、お客様は喜ばれます。それが楽しくて皆この仕事をしているので、インバウンド対応でも、あくなき探求をしてほしいと思っています。

外国人従業員を10%に

プロゴス社

ホテル業界では外国籍社員を雇用するケースが増えていますが、貴社には外国籍社員社員はどのくらいいらっしゃいますか?

西野様

当社でも外国人社員はいますが、近いうちに全体で平均10%程度にしようというレベル感でいます。グループ内のホテルによっては、もう従業員の半分近くが外国人というところもあります。皆さん日本が好きで、まじめな方が多いです。

杉野様

社内の外国人社員は、日本のアニメが好きな人が多く、休みの日に「聖地巡礼にいってきた」と私たちが知らないような作家の出身地までいったりしているようです。

外国人社員が増えていくなかで、受け入れる日本人側のトレーニングの強化も進めています。外国人従業員は日本語を学ぶ、日本の社員は英語を学ぶ、とうことでお互いに歩み寄るのが理想なので、日本人側には英語をもっと学んでほしいです。また異文化マネジメント、ダイバーシティという点では、外国人のマネジメントについて、全国の総支配人に対して講演会を実施しました。また管理職にダイバーシティの動画研修を受けてもらったりしています。

 

プロゴス社

異文化の視点を大切に、インバウンドのお客様に質の高い体験をしていただくという貴社の方針と施策がよくわかりました。ありがとうございました。